E
Episode@R4さん (80gnvfnc)2021/9/29 22:45 (No.5376)削除【Tierne編】
【Tierne@A4】
「はぁっ……はっ、は……」
(人目も憚らず、廊下を走っていた。速く、速く。それだけを考えて。後から物凄く気持ち悪くなるのだろうが今はそんなことどうでもいい。速く彼の元へ行かなければ。ただそれだけを一心に考えて、思いだけで足が速くなるわけではないけれど。廊下を、階段を走る。走る。走る。知らなかったのだ。『彼がそんなことになってるなんて知らなかった。』角を曲がる『この間の無人島で慣れない日の下で活動しすぎたのか、軽い日射病になって二日ほどダウンしていた。』階段を登る『おかしいとは思ったのだ。』足がもつれかける。『自惚れではないけれど、自分の体調が悪いと知ったら彼はすぐ駆けつけるだろうから。』手すりを掴んでどうにか転ばずに済んだ『最悪だ。』また、走り出す『向こうのほうがもっと酷かった。』また角を曲がる『朝、同寮の子に愛する人が医務室にいると聞いた。』また曲がって、階段を登る『ここに来る前に新しく得た魔術探知を使ってみた』息がどんどん苦しくなって、体から力が抜けていく『街頭が、道が、暴走した魔術で殴り書きされていた』角を曲がって、長い廊下を走る『こんなの、術者が無事なわけがないと思ったのだ』穏やかな日のさす廊下を、ただ走る『案の定、両目を負傷したと聞いた』少しだけ開いていた扉を残った力で思いっきり開く。)
「エピくん!!!」
(自慢の髪型をぐしゃぐしゃにするのも厭わず走ってきた少女の目にはベットの上で眠る彼の姿だけが写った。扉に手をついて、浅く呼吸を繰り返す。どうしよう、暫く話せそうにない。) @Episode
【Episode@R4】
(目は光しか見えない。その光もまた呪符であつらえただけの疑似的なそれだし、意味のないただのお飾りに過ぎない。ここに来てから何度目かもわからない乾いた笑いが漏れる。面白いわけじゃないのに口の端からこぼれる笑いは、どうしようもなく無様な気がした。ああ、そういえば、看護師からの風の噂で聞いた。最愛の少女が日射病になってしばらくダウンしていたらしい。どうやら無人島で日に当たり過ぎたのだろう。容易に想像がつく姿に、乾いた笑いとは別の笑みが落ちた。しかしそんな彼女を見舞うことすらできない自分の無力さは、愚かさは、心臓の中を搔きむしらせる。馬鹿が。ゴミが。カスが。無能が。低能が。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね!)
「うるせえよちょっと黙ってろよ!!」
(幻聴に怒鳴り散らす。幸い一人部屋だからいくら叫んでも暴れても問題ない。それでよくなるわけじゃないけど、暴れなきゃ感覚がどんどんわかんなくなる。首を掻く。その首には無数の生傷やかさぶたがあり、彼がそうし続けていたことを一目で理解させることだろう。ガリガリ。ガリガリ。)
「あああああ、イライラするなあ!!クソクソクソ!!」
(手元にあった枕をどこかもわからない場所に投げつける。それで収まるほど、彼の精神状態は安定してない。……その時だ。扉の開く音と、荒い呼吸。そして自分を『エピくん』と呼ぶ聞きなれた声。なのに。)
「ああ。ティアか?悪い、見えないから本当に君かわからないんだ」
(見えない。愛する貴女の顔を見ることすらできない。苛立つ。自分の太腿を拳で殴りつけて、暴れかけていた。)
【Tierne@A4】
(扉からよたよたと歩き出した。こんな時は愛用のヒールが恨めしくなる。ぼやけていた視界が徐々にはっきりしてきた。彼の頭に巻かれた白い包帯が、彼の体についた無数の傷が目に入った。今しがた更につけたのだろう。血の滲んだ傷は大層悲惨でますます心配になる。医務室にいるのだから感染症などの心配はないのだろうがそれでも、永遠に完治しない傷はじわじわと心さえも痛め、蝕んでいくものだ。)
「は…、え、エピくん…」
(まだ肩で息をしながらも彼の方へと近づく。ベットの横に置かれていた椅子をガガガと彼の頭の方へとひいて、座る。わからない、と言われた。どうしたらわかってもらえるだろうか。さっきよりも近くで名前を呼ぼうか、いっそのこと抱きしめようか。兎に角体温を感じてほしい。ここに居ると確信してほしい。太ももの上できつく握られた手をそっととる。その手をそのまま自身の頬に添える。もう片方の手もとれば、そちらは自らの心臓があるところにあてがった。頬の肉は薄いし胸囲もそれほどないから、きっと心音も脈も体温もはっきりと伝わってくるはずだ。)
「は、…こ、これなら声だけじゃなくて私の体温も、伝わるでしょう?さっきまで走ってたから心臓は凄く、うるさいと思うわ。」
(まだ息は整っていないけれど、精一杯はにかんでみる。大丈夫よ、ここに居るわ、とでも言うように。) @Episode@R4
【Episode@R4】
(こつこつと音がする。これは足音か。ああ、ヒールか。そういえば彼女はヒールを履いていたっけ。そうやって、一拍も二拍も遅れて思考しなければ状況をつかみ取ることさえ難しい。近づいてくれば、自分を呼ぶ声と椅子を引く音が脳をかき混ぜる。あれ、今どこにいるんだろ。座ったのかな、邪魔だからどけたのかな。よくわからずに苛立ちは寂しさや悲しみに変換され、胸の奥を締め付けるようだった。すると手に触れる温かな感覚に、は、と思う。あの日、天文台で繋いだ手と同じ温もりが、そっと引くように指先にいろいろな感覚を伝えた。一つは温もりを、一つは感触を、一つはリズムを、見えないエピソードに伝える。ああ、そこにいるのか。)
「ティア、走ってたんだ。運動苦手なのに、変なの」
(エピソードはそう言って軽く微笑む。光が僅かに視界に揺らぎを与えたような気がして、伏せていた顔を上げる。なのに相変わらず朧気な白光だけが目の中で炭酸のように小さく弾けていた。泡のようにパチパチ消える光に、何も思えない。無味無臭で無視無聞の光に思うところなんてなくて、ただ乾いた笑いが漏れる。)
「そういえば、元気だった?日射病とか気を付けないとだめだよー、ちょっとはしゃぎすぎたね」
(乾燥した感情を貴女に向けて、貴女の手に少しだけ指を絡めた。『そんなことしかできないもんな』『やっぱりお前には期待できないよ』『あの二人がお前に抱いた感情と同じだ』『きっと彼女も思っているさ』『今は情けをかけてくれてるだけ』『そのうち』そのうち。)
「うるさいなあ!黙ってろって言ってんだろ!!」
(貴女とはおそらく違う、誰もいやしない方向に向かって叫ぶだろう。その刹那に、絡めた手はほどけて。)
【Tierne@A4】
(思っていた以上に精神をやられている。率直な感想はその一つだけだった。感情の平坦化、幻聴は確実にあるだろう。確か視覚は人の外部からの情報の約8割を担っていると本で読んだことがある。それを急に失ってしまったのだから無理もないか。返事をするも、会話をしているのにどこかの他のところを見ているような感覚さえも感じる。あっちは上の空で、折角繋げた手が解けて、何だか嫌な感じがする。椅子から立ち上がって、ベットの脇に腰を下ろす。)
「エピくん、こっち向いて?」
(先程までは繋がれていた手を、今度は頬に添えた。自分がここに居るのに、彼の注意が他に向いているのがなんだか気に食わない。それが人であろうと、なかろうと。顔を多少強引にこちらに向ける。)
「今貴方は私と一緒にいるのよ?他のことなんて気にしないでこっちだけ見てて?」
(もやもやする。苦しいとはまた違う感情だ。彼に嫌悪感を抱いているわけではないし。嗚呼、これが嫉妬か。)
「ね?エピくん。」
(彼には見えていないのだろうけれど、少しの苛立ちを塗りつぶすためにいたずらっぽく笑った。どうせあちらは見えてないのだから、口づけの一つでも降らしてみようか。いや、こういうのは男の方からするのが定石なのだっけ。数秒の熟考の後、無防備な頬に口づけを落とした。彼だって、流石にこれが唇だとわからないほど鈍感ではないだろう。) @Episode@R4
【Episode@R4】
(幻聴に叫んでいるのはわかっている。でもそうしないとまともに頭が働かないのだ、仕方がない。するとティアーネにこっちを向いて、と言われて頬を掴まれる。強引にそちらを向かされて、言われたのは『嫉妬』にも似た言葉。エピソードは貴女の口からそんな言葉が出るなんて思っておらず、正直に驚く。返す言葉も出ぬまま、貴女に何を言えばいいのか迷っていると、不意に頬に触れる『何か』。震えて、微かに吐息があって、リップ音がして。……思考が無になった。今まで考えていた自分に対する感情や無力さも、さっきからうるさく罵ってきていた幻聴も、何もかも消えて、『貴女』だけが残る。記憶の中から引っ張り上げられる全てが心を、頭を、感覚を満たしていく。ああ、好きだ。やっぱり、自分には彼女しか。──『そんなのぬるすぎ』)
「え?」
(目に激痛。凄まじい痛みが襲って声を上げる間もなくベッドの上をのたうち回る。焼ける。切り裂かれる。潰される。削がれる。突き刺される。ありとあらゆる痛みに目が、思考が、視界が終わる。)
「あ゛ああああ゛あ、ああああああああああ!!!」
(目を押さえる。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!視神経が切れるだけじゃない、何か、別の何かが。)
『交代の時間だ』
(意識が霧散した。比喩ではなく。本当に。)
(さて。エピソードに新しく発現された魔眼だが、彼の場合は歪曲の魔眼が付与された、というわけではなく、『魔眼の概念』そのものが取り憑いていたのだ。概念とはそもそも、なくなることのないものだ。なくなってもなくならない。つまり目が潰れたところで、彼の中にある概念は『視えている』。そして彼が聞いていた幻聴は、精神異常による幻聴ではなく『概念の声』だった。概念はエピソードの中で言語を覚え、感情を覚え、ありとあらゆるものを覚え、成長した。果たして概念は『人格』となるまで成長し、そして。)
『これが人間の体か。結構馴染むねえ』
(目にまかれていた包帯と呪符が弾け飛び、エピソード?はゆっくりとベッドから降りる。『紫色の目』が、世界を試すように見ていた。)
『手始めに世界でも終わらせるか』
【Tierne@A4】
「エピくんっ!!!」
(急に挙動が止まって、気づいたのかな?なんて希望的観測をしていれば彼が急に叫びだした。愛する彼が痛みを訴え叫ぶ。悲痛な声色で叫ぶ。何かに耐えるように叫ぶ。目を抑える。頬に添えていた手が離れてしまう。嗚呼どうしよう。狼狽えてはいけない、どうにか戻さなくてはと咄嗟にシーツを握っていた手を伸ばすも彼が動いた。目を覆っていた包帯が弾け飛ぶ。聞き馴染みのある声で聞いたことのない口調の呟きがされる。両の足で立ったその人の双眸はどこかの夕焼けにも似たあの橙ではなかった)
「誰…?」
(紫色の瞳。知らぬ口調。誰?知らない。これは私の愛する人ではないと本能が、理性が、見える聞こえる感じる情報全てがそう伝えてくる。先程までのおかしな挙動。一連の事件。彼に耐性がなかっただけかと思っていた。魔眼はこれほどまで術者によって変わってしまうものなのかと思っていた。これは魔眼と言えるレベルのものではなさそうだ。第一、スキルの範疇を超えている。なら、それなら…)いいえ、やっぱり貴方が誰かなんてどうでもいいわ。(実力行使して止め、然るべき人に見せるのが最善だろう。ベットから降り、少し後退する。走ってる間は持っているのが難しくて後ろの方に飛ばしていた本と、胸ポケットにしまっていた羽ペンを構え、『誰か』を見据える。)
「私のエピくんを返して頂戴?」 @Episode@R4
【Foreigner@???】
(目の前で貴女が羽ペンを持って距離を取っているのに、エピソードは──否、フォーリナーは大きく伸びをして欠伸を一つしている。まるで貴女を意に介さず、紫色の液体のような眼球は不思議そうの貴女を見つめながら、眼窩の内をどろりと蠢いている。フォーリナーは困ったように唸って、首を鳴らしながら貴女に相対する。)
『んんー?エピくん?この体のことかァ?……返してって言われてもなァ、これは今は俺のなんだよなァ。もし強引に奪うって言うなら──』
『目障りだ』
(ぎゅるん。紫の目が一瞬にして深紅、『赤』に変貌する。貴女がそうなったと気付いたときには、もう貴女は視界におり、『見えない力』によって壁に叩きつけられるまで弾き飛ばされるか。さあ。世界に挑む序章といこう。)
【Tierne@A4】
「うあっ…ぁ……」
(ノーモーションで放たれた大いなる力に、カーテンの向こうの清潔な壁に押し付けられる。咄嗟に詠唱して衝撃を和らげるも無様な声とともに無理やり押し付けられた体は悲鳴を上げ、口からも微かな声が漏れ出す。飛ばされた衝撃で髪型はさっきよりも崩れるし羽ペンは遠くに飛んでいって見失うし、散々だ。それでも座り込むわけにはいかなくて、無理に踏ん張っている足のたくしあげたスカートの中、太腿に巻かれたベルトから刃渡り15センチ程のナイフを取り出した。あっちは殆ど肉体なんて使わずに攻撃できそうだが、まあ少しくらいは物理の攻撃力と範囲が上がるだろう。大丈夫策はまだある。左手の少し傷がついて埃を被ってしまった本を握りしめて、右手にはぴかぴかと輝いたナイフを構える。こちらはすぐ飛ばされるのだからそれなら、寄れるだけ寄ってしまおう。何かを呟きながら、真っ赤なヒールの爪先に力を込めれば、あちらへ駆け出した。) @Foreigner@???
【Foreigner@???】
(立ち上がる貴女。こちらを見据える双眸。フォーリナーの胸が疼くような気がした。)
『あァー、諦めない精神ってやつだ。こいつの知識で見たよ』
(病室は凄まじい力が吹き抜けた影響で嵐が通ったような有り様だった。相手は羽ペンを落として心を折ったかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。ナイフと本を握りしめてこちらへと突撃してくる。それを嘲笑うようにフォーリナーは感想を述べると、赤い両目が医務室のベッドを見た。)
『サンドイッチって、こうやるんだよね、知ってるよ』
(2つのベッドが貴女を挟むように不可視の手によって高速で接近するか。フォーリナーはなにも思わない。ただ今の自分の力を試すように、その場でストレッチをしていることだろう。)
【Tierne@A4】
(やっぱり、見てるのか。本当のノーモーションの魔術は存在しないのだとどこかの本で読んだ。彼の色から変わってしまった瞳からも察するに、この人物の場合は『見る』ことが重要なのだろう。そんなことを考えつつ、先程詠唱で強化した足で、斜め前方めがけて飛び上がった。迫りくる大型障害物と化したベットからどうにか逃れる。強化したからと言って急に運動が出来るようになったりはしないけれど、雑に繰り出された攻撃を避けられないほどではない。両足をしっかりと地面につけて。)
「大丈夫、私生きてるわ。」
(ただそれだけを呟いて前を見据えれば、また、先程とは別の詠唱を始める。握りしめられた古びた本、不規則に揺らされるナイフの刃先。まだ手札はある。その足は止まらずに目標に向かって動き続けていた。) @Foreigner@???
【Foreigner@???】
(ベッド同士が音を立てて床に落ちる。その中に貴女はいない。高速で迫るベッドを見事に避け、貴女はまだこちらを睨んで向かってくる。それが何故か、フォーリナーには鬱陶しくて、肺に満ちていた空気を溜め息として吐き出す。)
『めんどくせえなァ……』
(ぎょろり。右の眼窩に紫が落ちる。それが見たのは、貴女の手にあるナイフ。見た刹那からナイフの刀身は溶けた蝋燭のごとくねじ曲がって、使い物にならないくらいに歪んでしまうか。そして変わることのない左目の赤が、貴女を見よう。今度は弾き飛ばすのではなく、叩きつける。不可視の力は貴女を地面に押さえつけるだろう。)
【Tierne@A4】
(こちらを向いた敵意をたっぷりと孕む目がどろどろと染まってはその色を変えた。紫、そして赤。赤は物に無理矢理力をかけてくる。シンプル故に厄介だ。紫は確か最初に包帯が弾けたときにしか見れていない。どんな力だとしても、こちらに敵意を向けてきていることに変わりはないだろう。真っ赤な目が向いているのは明らかにこちらだ。潰される。直感的にそう感じた。咄嗟に、古びた本に括ったの鍵を本に差し込み、回す。)
「Kiwitt, kiwitt, wat vör'n schöön Vagel bün ik!」
(今度は高速詠唱を用いて、言葉を歌う。キーウィット、キーウィット。僕はなんてきれいな鳥なんだ。本来この詩はもっと長いけれどこれどけでも効力は十分ある。カリカリ、カリカリとどこからか音がする。その刹那、体が地面にぶつかる。)
「うぁっ……!」
(どうに威力は弱めたけれど直ぐに身動きがとれないほどにはダメージを負った。短いうめき声の聞こえなくなった部屋の中には、中を浮く本のペラペラとページのめくれる音と、何処からか聞こえるカリカリとまるで何かを記している様な 音のみが響いていた。) @Foreigner@???
【Foreigner@???】
(押さえつけられる貴女を見て、フォーリナーは感慨もなく息を吐き出した。)
『終わりにしようぜ、もう飽きた』
(何かを企んでいるようだが、フォーリナーにとってそんなのは些事でしかない。それに、わざわざそれを相手してやる義理などないのだ。終わりと告げた後、彼の口が動く。そして、)
『『カーフヴァイナ』……『フル・ダニア』』
(連続して魔術を行使しよう。カーフヴァイナは拘束魔術、フルダニアは最上防御魔術。それらをエピソードが持っているスキル『略式詠唱』にてその場に産み出せば、まず貴女は押さえつけられたままに見えない鎖によって拘束され、身動きが取れなくなるか。加えてフルダニアによって貴女とフォーリナーの間には空気の揺らぎのような魔術の痕跡があろう。それは盾だ。魔術を守るべく、見えぬ盾がそこにあるか。……フォーリナーは左の歪曲を窓に向けて、窓を木っ端微塵に破壊する。それから何も言わぬまま貴女を一瞥するだけして、その窓へ向かっていこう。その時にはもう貴女を押さえつけていた圧力は消える。だが拘束魔術は残る。そして彼は窓に近寄って、足をかけて外に飛び出すか。カーフヴァイナのせいで、貴女はそれを見送るしかないだろう。では。また会えたら会おうじゃないか。)
【Tierne@A4】
「私が攻撃するとでも思ったの?」
(圧力と見えぬ拘束によって床に押さえつけられた少女は、聞こえてきた詠唱を聞きながらただただ微笑んでいた。最初から魔術で攻撃する気はない。そもそもきっと魔術の攻撃などでは太刀打ちできない可能性だってあるのだから。少女が言葉を発したその刹那、地面が煌々と輝き始めた。パラパラ、パラパラとページの捲られ続けていた本はいつの間にかその一切の動きをやめ部屋の中央、空中で静止する。部屋のどこかから響いていたカリカリと言う音が止めば何処かへ飛んでいった筈の羽ペンは少女の元へと戻ってくる。その間、光輝いていた地面は、大きな大きな『魔法陣』は、その色を透き通るような白から光すら反射しない黒へと変化していた。その時、どぷんと 重そうな液体とも個体とも取れそうな『何か』が魔法陣を囲もうとするかのように四方八方へ飛び出した。黒黒とした、しかし全くと言っていいほど光を反射しない、何処までも吸い込まれてしまいそうな闇。それは意思を持ったかのように部屋を侵食していく。その一部が、逃げようとするその人の足をめがけて窓の方へと伸びていた。例えそこから落ちたって、飛んだってこちらが伸びるほうが速い筈だ。吉と出るか凶と出るか。どこかの本で読んだ言葉だ。大丈夫、まだ戦える。最悪追撃すればいいさ。 )
【Foreigner@???】
『へえ……これは意外だ。中々頭が回るんだなァ、お前』
(シンプルな称賛をしながら、床が白く輝き出すのなら、その輝きを放つ床をフォーリナーは『見ざるを得ない』。それは何てことのない、生物としての体が持つ反射的な本能だった。本来なら人間の目は強い光には対応できない。だが『魔眼の悪魔』にその程度はやはり些事だ。そんな人間の概念に当てはまることはない。そもそも見る手間すら省いて、フォーリナーの目は『魔法陣』を見ることだろう。歪曲の魔眼は既に装填されている。つまり見るだけで発動が可能ということだ。……さて、魔法陣というのは大きいものを描けば描くほど強力な魔術を発生させる。それは貴女も存じていることだろう。だが魔法陣は繊細だ。一瞬でも、一欠片でも狂えばその時点で効果を失う。もちろん少ない障害だったり、魔法陣に防御魔術を施してあるならすぐにリカバリーできるだろうが、これならどうだろう?歪曲は魔法陣のある床にバスケットボール大の穴を開けて、魔法陣を発動よりも一瞬だけ早く大規模な何かを瓦解させるか。それに、フルダニアは貴女とフォーリナーの間にある。魔法陣がどれくらい大きいかも知らないが、ダイヤモンドのごとき強度で防ぐため、例え魔術以外でもそう簡単に通すことはないか。では今度こそさらばだ。)
『じゃあな。お前ならどうせすぐ追い付くだろうが……それは次のお楽しみだ』
(言って、フォーリナーは窓の外に落ちていき、次の瞬間には悠々自適に校舎を歩いていく。その途中で様々なものを歪ませながら、吹き飛ばしながら。彼の青紫は様々な模様を見る。ああ、これが。これが!)
『これが世界か!』
(爆炎が、歪みが、クレーターが、ありとあらゆる力が荒れ狂う中、フォーリナーは嬉々として声をあげた。童子のようなそれは、まるで悪魔のようだった。)